院長エッセイ~育む~
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植物は環境次第で育ち、花を咲かせ、実がなります。脳神経は植物のように育む必要があります。
日々の生活の中でヒントにして頂ければと思い、私自身の取り組み方などを綴っています。
2025年7月
消極的生活
梅雨が明けたら、子供たちの元気な声や姿で空気が一変する夏が来ます。蝉の声も聞こえ、活動的、積極的な明るい雰囲気で満たされます。しかし、現実の生活は大きな変化はなく過ぎていきます。世の中の積極的な雰囲気がどこかよそよそしく感じられることもあり、夏の暑さに負けそうにもなりそうです。今回は、そんな消極的思考に陥らないための安定した消極的生活をお勧めします。
夏目漱石の代表作「吾輩は猫である」を知らない方はいないでしょうが、読んだ方はそれほど多くないようです。飼い猫とクシャミ先生の周りに登場する人々との掛け合いで、ユーモアのある社会風刺が盛りだくさんです。その中に、哲学者が登場して、クシャミ先生に説教する次のような場面があります。
【西洋人のやり方は積極的積極的と云って近頃大分流行るが、あれは大なる欠点を持っているよ。第一積極的と云ったって際限がない話しだ。いつまで積極的にやり通したって、満足と云う域とか完全と云う境にいけるものじゃない。西洋の文明は積極的、進取的かも知れないがつまり不満足で一生をくらす人の作った文明さ。】
おや、積極性は正義と思っていたけど、そうでもなさそうだ、と思いませんか。
積極、消極の『極』について考えてみましょう。きわみ、とも読み、究極、極端など尖ったイメージがあり、積極性にもこの尖ったイメージが付きます。そこで、その極を消す消極性のイメージが生まれます。角の取れた丸く暖かいイメージです。暗いイメージではありません。漱石は続いて次のように述べています。
【日本の文明は自分以外の状態を変化させて満足を求めるのじゃない。西洋と大に違うところは、根本的に周囲の境遇は動かすべからざるものと云う一大仮定の下に発達しているのだ。】
自分の尖った部分を削って、抵抗の少ない転がるような生活を心掛ければ、夏の暑さも苦にならず、秋にはまた一つ成長した自分を実感できることと思います。

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